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私たちが手しごとのうつわに惹かれる理由。伝統を伝え続ける意味とは。

大量生産が当たり前になり、うつわもあふれる現代。私たちはなぜ「手しごとのうつわ」に心を惹かれるのでしょうか。
答えの鍵は、小さなゆらぎにあります。縁の丸みや勾配、釉のにじみが、よそう・口に運ぶ・洗って重ねるを心地よくし、 料理の色をやわらげます。
日々の彩りがそこで生まれる。だから、その技を続けることに意味があります。
この“彩りが生まれる仕組み”を、工房の手の動きと、使う人の実感から確かめます。
小さなゆらぎが生まれるところ
工房では、職人がろくろを回しています。

土をまとめ、成形する。

削りで重心を整え、乾き具合を見て釉を掛ける。

温度は一気に上げず、ゆっくり運ぶと説明があります。 窯場の壁には温度表の鉛筆跡が重なり、火の動きを確かめてきた記録が並びます。

どの工程も、正確さと同じくらい“手の感覚”に委ねられています。
湿り気の具合、釉の厚み、筆圧のわずかな差。 そうした細部の積み重ねが、うつわの使い心地と彩りを形づくります。
小さなゆらぎを生む現場には、時間と手の記憶が重なっています。

受け継ぐのは、使い心地
二代目の相馬大作さんは、伝統を固定された型ではなく「続ける営み」と捉えています。 最初の仕事は“発明”に近い。 その後を担う作り手が重ね、使い手に受け入れられてはじめて伝統になると考えています。

はじまりの技を次の手が受け取り、日々の仕事として続けることで形になる、と見ています。
近年は、色の選び方に新しい流れが見られるやちむんについても、「使い手に受け入れられ、作り続けられれば、いずれ伝統の一部と呼ばれるかもしれない」と話します。評価の基準は、一貫して日常の使い心地です。
また、陶眞窯のうつわは高級品として飾られるより、台所で気兼ねなく使われるうつわでありたいと考えています。

工房では、「100年後も作り続ける職人として」という言葉を合言葉に、誰かの手に届くことを前提に、今日の仕事を重ねています。
形を守るだけでなく、続けること。その姿勢が、陶眞窯のうつわに通う確かさを支える土台になります。
使い心地が選び方になる
工房を案内してくれたはまもとさんは、自宅でもよくやちむんを使うと話します。
家の棚はやちむんが中心で、陶器市では好きなものを少しずつ買い足すそうです。家族で柄が違ってもよいという選び方は、今の暮らしに無理がありません。

うつわの話になると声が弾み、釉のにじみが料理を美味しそうに見せる実感を話してくれます。
小鉢サイズは取り回しがきき、縁の当たりはやさしく、洗って重ねても扱いやすい。こうした使い心地の積み重ねが、毎日の支度に落ち着いた空気と彩りをもたらします。

この感覚は、相馬さんの言う「日常で使われてこそ価値が生きる」という考えと響き合います。
うつわとともに受け継がれるもの
ここで当初の疑問に立ち返りましょう。 私たちはなぜ「手しごとのうつわ」に心を惹かれるのでしょうか。その答えの一つは、小さなゆらぎが使う場にもたらす空気と彩りです。

伝統工芸が守ってきたのは、うつわそのものだけではありません。使う人の生活を見つめる視点を何より大切にしてきました。確かな技を磨きながら、暮らしに沿って新しい工夫を重ねていく。その積み重ねを受け継いできたからこそ、陶眞窯のうつわの確かさがあります。
まずは一枚からでも。
朝・昼・夜、食事の支度で、日々の彩りの変化を確かめてみてください。










